いくら眠ろうとあせっても眠気が襲ってこない。そんなときにアルコールを飲んでしまう人は多いかもしれません。寝酒(ナイトキャップ)なんて言葉もありますよね。
たしかに飲酒は眠気をもたらし、入眠を助けてくれる効果があります。しかし、睡眠の質という観点からみると、残念ながら、飲酒と睡眠の相性はいいものとは言えません。飲酒はかえって熟睡を妨げてしまうのです。
今回は、眠れなくなったときになぜ飲酒がいけないのか、その理由を詳しく解説します。
アルコールに頼らずに眠りにつける方法もお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。

お酒を飲むと、身体の中で何が起こるのか

アルコールを飲むと、なぜ眠気が起こるのでしょうか。
アルコール摂取によって起こる身体の変化について知っておきましょう。

アルコールを飲むとリラックスして眠くなる

アルコールを摂取すると、運動、感情、意思などをコントロールする脳の中枢神経の働きが鈍くなります。これにより、心身のリラックス度が高まることで眠気を催します。

身体がアルコール代謝を始める

アルコールは、体内に取り込まれると、まず胃や小腸に吸収され、そして血液中に入って全身を巡り、肝臓に運ばれます。肝臓で酢酸の状態まで分解されたあと、再び血液中に流れ出ます。最終的には、尿や汗、二酸化炭素(呼気)となって排出されることになります。
不快な症状が起こる二日酔いの原因は、アルコール量が多過ぎて、分解が追いついていないということです。

アルコールを飲むと水分が不足します

喉が渇いたときにビールを飲みたくなる人は多いと思いますが、じつはアルコールを飲んでも水分補給にはなりません。なぜかというと、アルコールには利尿作用がありますので、かえって体内の水分が不足しがちになってしまうのです。ビールを飲み続けると頻繁にトイレに行きたくなるのは、そのためです。
また、アルコールは酢酸に分解される過程でも水分を必要としますので、水分不足状態はさらに拍車がかかります。
水分が不足すると、アルコール分解が滞ってしまい、毒素や有害物質が排出しきれないまま体内に残ります。代謝や分解が追いつかないということは、肝臓がフル活動になっている、つまり酷使している状態ともいえます。

眠る前にお酒を飲むのがダメな理由

お酒を飲むと、たしかに眠気を催します。気持ちよく眠るのを助けてくれるのでは?と思いがちですが、じつはそうでもなのです。寝る前の飲酒は、多くの人が思っているよりもずっと危険なものです。
以下に、なぜ眠る前の飲酒がいけないのか、その理由を解説します。

【就寝時】寝酒が習慣化すると肝臓病やアル中の可能性も

スーッと眠りに入るために、毎晩習慣的に寝酒をしている人は、裏を返せば、アルコールの効力がなければ眠れないということです。寝酒が習慣になってしまうと、睡眠力が上がらないまま、お酒に頼り続けてしまうことになります。
心理的にも、「寝酒をしないと眠れない」という状況が生まれやすくなります。さらに、毎日飲酒しているようだと、肝臓が休まる日(休肝日)もなくなります。
アルコールへの耐性がついてしまい、次第に同じ量のお酒では催眠作用を感じなくなっていきます。お酒の量がどんどん増えてしまう可能性が高くなるのです。
このようなことから、寝酒の習慣は肝臓病やアルコール依存のリスクを高めると考えられます。

【就寝中】寝つくことができても、熟睡とは言えない

アルコールを寝る前に摂取すると、たしかに寝つきは良くなるでしょう。
しかし、熟睡や十分な睡眠時間を確保という面から見ると、アルコールは明らかに阻害要因いなります。
アルコールは代謝されることによって、血中のアルコール濃度が薄くなっていきます。
アルコール度数や量、個人の体重・体質によって異なりますが、たとえば350mlのビールに含まれるアルコールを代謝するのに要する時間は2~3時間程度にもなります。日本酒1合だと、じつに5時間半ほどの代謝時間がかかるのです。
代謝が完了すると、脳はアルコール作用による抑制から解放されますが、このとき脳の活動が一気に強まるため、いわゆる興奮状態になってしまうのです。このため、一度目が覚めてしまうと、再び眠ることが難しくなります。
飲酒によって眠ることができるのは、あくまでもアルコールの作用によるものであり、理想的な「熟睡=レム睡眠」の状態ではありません。つまり、睡眠不足となりやすいのです。

熟睡を妨げる要因は、それだけではありません。
アルコールには利尿作用があります。このためトイレに起きる確率も高くなるでしょう。普通の人がトイレに行かずに寝ていられるのは、バソプレッシンという抗利尿ホルモンの働きなのですが、アルコールはこのホルモンの機能を低下させてしまうので、トイレに行きたくて目を覚ましてしまう可能性が高くなります。そして、一度起きてしまうと、眠りにくくなってしまうのです。
また、アルコールには筋弛緩作用もありますので、気道が塞がれやすくなります。このため、いびきや睡眠時無呼吸なども起こりやすくなります。これらも浅い睡眠や中途覚醒の要因となります。

【起床後】浅い眠りと中途覚醒の影響

お酒を飲んで眠った夜の翌朝は、以下のようなことが起こりやすくなります。
まず、飲み過ぎた場合は、二日酔いなどの不快な症状に見舞われます。これは水分不足によって、老廃物や有害物質が体内に停滞している状態です。
そして、アルコールが本来のノンレム/レム睡眠のバランスを崩してしまっているため、熟睡できた感覚が得られません。たとえアルコール代謝が終わっていても、浅い眠りや早期覚醒が避けられないため、眠っていた時間のわりには疲れがとれていないのです。
そのような状態では、日中眠くなったり、パフォーマンスが落ちてしまったりしても不思議ではありません。
こうした睡眠不足の状態が続けば、それが深刻な不眠や睡眠障害に発展してしまう確率が高まります。さらに、お酒に頼ることによって、飲酒量が増えたり、アルコール依存度が高まったりする危険性もあるのです。

お酒に頼らない睡眠習慣を身につけよう

眠れないときにアルコールに頼ってしまうことのリスクがおわかりいただけたことと思います。
そこで、ここからは、アルコールなしでも気持ちよく眠りにつける方法をご紹介します。

夜、飲みたいときは時間と量を守る

良くないとはいえ、一日の終わりにお酒を飲むのを楽しみにしている方もたくさんいますよね。
お酒好きは、時間と適量を守れば、決して悪いことではありません。夜の飲酒はリラックス効果を高めてくれます。ただし、アルコールが分解されてから就寝するように心がけることが必要です。おおよその代謝時間は次のように算出することができます。

<アルコール代謝時間の測定方法>
A・・・・1時間に分解できるアルコール量(g) = 体重×0.1
B・・・・純アルコール量 = 飲酒量(ml)×お酒の度数(%)×0.8

アルコール代謝時間:B ÷ A
※あくまで目安です。体質や食事内容によって異なります。

寝る30分ほど前にお風呂に入る

眠くなると、人間の体温は低下します。この状態を人為的に作り出すには、お風呂に入って体温を一度上げることが有効です。お風呂から上がると、徐々に体温が下がってくるため、入浴の後30分前後が眠りにつきやすいタイミングとなるのです。ぬるめのお湯にゆっくり浸かることで、緊張もほぐれる効果があります。

アロマ、照明、音楽などで工夫する

五感への刺激を和らげたり、リラクゼーション効果のあるものを活用したりすることも、入眠を助けてくれます。アロマ(嗅覚)、照明を落とす(視覚)、音楽(聴覚)などがおすすめです。これらを眠るときのルーチン(入眠儀式)とすることで、自然に眠くなることが期待できます。

同じ時間に起床して体内時計をリセットする

就寝時間、起床時間を一定にすると、そのサイクルに合わせて自然に眠くなるようになります。日によって就寝時間がずれてしまっても、起床時間は変えないということがポイントです。
体内時計がリセットされれば、ホルモン分泌機能も正常に働くため、夜にしっかり眠れる体内環境が整います。

適度な運動を習慣にする

スポーツをしたり、動き回ったりした日は、適度な疲れによってぐっすり眠れます。しかし、日中の活動量が足りないと、身体があまり休息(眠り)を必要としなくなってしまいます。
現代人は、「脳だけを酷使して、身体はあまり使っていない」という人が多くなっています。適度な運動で、ある程度、身体を疲れさせることも睡眠には必要です。

どうしても眠れないときは睡眠薬を処方してもらう

寝つきを良くし、朝までぐっすり眠るためにあらゆることを試しても、やっぱりどうしても眠れない、ということもあるかもしれません。翌日のことを考えると不安になりますし、何度を寝返りをうつのも苦痛ですよね。でも、飲酒に頼っても解決はできません。不眠が続いている場合は、市販の睡眠改善薬でも効かない状態になっていることも多いです。
眠れない原因はさまざまで、内臓疾患や精神疾患が原因となっていることもあります。そんな状態でアルコールを常飲してしまうと、ますます危険な状態になってしまうのは明らかです。まずは医師に相談しましょう。不眠症状の緩和にはアルコールよりも、医師の処方のもとで取り入れる睡眠薬のほうがずっと安全です。

睡眠薬は「知識なく睡眠薬を常用するのが危険な理由」という記事を参考に、必ず医師の処方のもとに服用してください。

寝つけない夜の寝酒は危険!では、どうすればいいの?

眠れないのは苦しいことですが、だからといって安易にお酒に頼るのは避けましょう。
ぐっすり眠れるように期待してお酒を飲んでも、逆のことしか起こりません。
熟睡できないだけでなく、不眠や睡眠障害、肝臓病、アルコール依存症など、さらに深刻な状況に陥るリスクが高まります。
なぜ眠れないのか、その原因をきちんと知り、眠りやすい生活習慣と睡眠環境を整えましょう。眠れない状態に困ったら、まずは医師に相談しましょう。適切な検査、指導、睡眠薬の処方が助けになるはずです。

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